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低炭素社会に向けたビジネスへ

  • 09 August 2016
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本稿は、カーボン・トラストのアソシエイト・ディレクター、アレーン・スミス=ギレスピー氏が2016年6月に駐日英国大使館で行った講演の要約です。

 


 

過去10年間、気候変動に関する英国企業のビジネス課題は、当初の主眼だった規制準拠からエネルギー効率向上によるコスト削減へと進化してきました。さらに最近は、トップ企業がサプライチェーンの透明化や購買ポリシーなど全般的なコスト・リスク管理問題に、炭素削減や気候変動対策を統合するようになっています。また、エネルギー、炭素削減、そして資源効率向上全般を製品やサービスに組み込むことで成長のチャンスを開拓する方向に向かっています。

 

この進化を牽引する要素のひとつは、企業取締役会レベル、そして投資家やステークホルダーレベルで、気候変動や炭素問題に関連するリスクやチャンスが事業計画の視野に入ってきたことです。また、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で締結されたパリ協定は重要なマイルストーンです。世界の国々が地球温暖化を2℃より十分に低く抑え、さらには気温上昇を1.5℃に抑える努力を行うと合意したことで、世界全体でゼロカーボン社会への移行に取り組む決意を固めたという明確なメッセージを発信したのです。

 

この決意を実現するためには、世界の炭素排出量を2100年までに「プラスマイナスゼロ」に減らすこと、そして今後15年以内に少なくとも炭素量の上昇を止め 、できれば減少させることが必要です。従って、今から2030年までは、世界が目標達成のためにこの流れに移行できるかどうかを決める重要な期間なのです。このためには、2030年までに世界全体の炭素排出量を現在の水準から約40%削減(1990年比では約10%削減)しなくてはなりません。しかし、一方でエネルギー需要は経済成長・開発により25%増加すると見込まれています。

 

図1 世界の温室効果ガス排出量予測シナリオ

図1 世界の温室効果ガス排出量予測シナリオ

 

ビジネス課題と機会の両方を生む低炭素社会への移行

図2 ビジネスが迎える気候リスクとチャンスの原動力

図2 ビジネスが迎える気候リスクとチャンスの原動力

この移行はビジネスにとって、課題と機会の両方を生み出します。その影響力や性質、インパクトは地域、また産業分野によっても異なります。しかし、すべての大企業、特にグローバル企業がこうした問題に取り組んでいかなくてはならないことは明確です。

 

 

 

 

 

 

気候変動の物理的な影響:大嵐や干ばつなど異常気象の激化、頻繁化や気候パターンの変化は、企業にも影響を与えます。特に農業サプライチェーンは大きな被害を受けると言えます。

 

規制や政策:法規制や政策が変わると、低炭素ビジネスモデルに移行する能力の有無により勝ち組企業と負け組企業に明暗が別れることも考えられます。法規制・政策転換で直接打撃を受ける場合もあれば、高効率製品や低炭素技術の採用奨励が市場や顧客の購買動向に変化をもたらし、間接的に影響される場合もあるでしょう。

 

サプライチェーン:図3が示すように、企業のサプライチェーンが排出する炭素量や関連エネルギー消費量が、その企業の事業規模を大きく凌駕することは珍しくありません。サプライチェーンが気候変動や資源枯渇のリスクを増幅するケースが、図では例示されています。前述した規制、気候変動などのリスクの原動力やエネルギー価格の高騰が、サプライチェーンを通じて企業の利益に影響を与えるのです。

 

図3 企業の事業カーボンフットプリントにおけるサプライチェーン炭素排出量の比率

図3 企業の事業カーボンフットプリントにおけるサプライチェーン炭素排出量の比率

 

購買者(特にB2B):サプライチェーンにおける炭素排出量の透明化を求める顧客の声が強まっています。カーボン・トラストは、10年近く前に世界初のカーボンフットプリント基準とラベルを制定し、企業が製品・サービスのカーボンフットプリント情報を発信することを可能にしました。また、ここ3年間は、世界中で共通手法を使った制度の開発や類似制度の整合化により、相互運用の促進に取り組んでいます。その重要な牽引力となっているのは、輸出市場・国内市場両方でビジネス顧客の求める情報や仕様要件を満たす製品カーボンフットプリント認証制度が欲しいという声です。

 

図4 製品カーボンフットプリント認証制度の国際整合化

図4 製品カーボンフットプリント認証制度の国際整合化

 

投資家:投資家も保有ポートフォリオ中の気候変動関連リスクの透明化や、投資がもたらす効果を理解できる情報を求めるようになってきています。イングランド銀行のマーク・カーニー総裁やマイケル・ブルームバーグは、気候関連財務情報開示を求める声の先頭に立ってきました。2人が共同で主導する気候関連財務ディスクロージャー・タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、企業から投資家、金融機関、保険会社などのステークホルダーへの情報提供に利用できる、一貫性のある気候関連財務情報開示の任意枠組み策定を目指しています。

 

気候変動に対する企業の行動とリーダーシップ

ビジネスにとって今は、気候変動問題の解決に参加するチャンスです。どのような行動が必要かを予想し、適切な行動を率先して積極的に始めていくことが鍵です。しかし、問題は企業がそうした取り組みに益を見出せず、むしろリスクと考えがちであることです。そこで、トップ企業が気候変動に取り組む際の主要戦略やアプローチを規範として示すことが役立ちます。

 

1. 科学的知見に整合した炭素目標の設定
多くの組織は短期・中期(5~10年)の炭素目標を設定しています。しかし、多くの場合、こうした目標は、世界の気温上昇幅を2℃未満に抑えるために必要な炭素削減ペースとは関係なく決められています。それに対し「科学に基づく」炭素目標とは、この国際目標とそれを支える気候科学の知見に整合した目標のことです。

 

「科学に基づく目標」イニシアティブは、企業が適切な脱炭素化への道を定義し、取り組みを進めることに役立つ枠組みと手法を提供します。イニシアティブに賛同し署名した企業は、ユニリーバ、P&G、ネスレ、コカコーラなどの消費財企業、HSBCやアクサを含む金融サービス、公共サービス、製造業など多様な産業分野のグローバル企業をはじめ、170社を超えています。日本からも、ソニー、日産自動車、トヨタ自動車、本田技研工業、大日本印刷、川崎汽船、リコー、大成建設など、多くの企業がこのイニシアティブに参加しています。

 

高度な炭素目標設定のためには、どのような炭素削減の機会があるかボトムアップ方式で評価し、企業の成長によって炭素排出量のベースラインが変化することを考慮する必要があります。下に示す図5はそうしたアプローチの例で、エネルギー効率化の機会に加え、再生可能エネルギーや「グリーン電力」の購入など、多角的に考慮しています。

 

図5 ゼロカーボン戦略の例

図5 ゼロカーボン戦略の例

 

科学に基づく目標設定を支援するもうひとつのイニシアティブは「100%再生エネルギー」(略称RE100)で、参加企業は使用エネルギーの100%再生可能エネルギー調達に取り組みます。BTグループ、マーズ、ユニリーバ、P&G、IKEAグループ、ナイキなどが参加しており、温室効果ガスプロトコルによる企業情報開示枠組みの改変で、企業が炭素会計でクリーンエネルギー購入を明記できるようになったことも、この動きに弾みをつけています。

 

2. ネットポジティブ戦略
科学に基づく目標が企業の枠内で設定されるのに対し、「ネットポジティブ」は企業が得た分よりも多くを返すという取り組みです。炭素の場合、製品やサービスを通してエンドユーザーが炭素排出量を削減できるようにすることで、企業自体のカーボンフットプリントよりはるかに大量の炭素削減を達成し、合計するとプラスの影響が出るようにするといった方法があります。

 

図6 携帯技術を通じて炭素排出量削減を可能に

図6 携帯技術を通じて炭素排出量削減を可能に

このアプローチは、自社フットプリントだけに注目した取り組みよりはるかに野心的です。顧客やサプライチェーンに良い影響を与えるよう戦略を拡大することで、広範なステークホルダーのコミュニティとの対話を生み、炭素問題と事業成長を結びつけます。図6は、携帯通信技術が炭素削減を可能にし、ネットポジティブ効果を生んだ例で、カーボン・トラストが最近発表したレポートで数値化されています。

企業がこのアプローチを採用した例に、BTの「ネットグッド」プログラムがあります。BTは、2013年に立ち上げた同プログラムを通して2020年までに自社事業のエンド・トゥ・エンド・カーボンインパクトの少なくとも3倍に当たる炭素を顧客が削減できるようにすることを目指しています。また、同時に自社事業のサステナビリティ向上やサプライチェーンへの影響拡大に引き続き取り組むことで、国際事業ネットワークにおける収益単位当たりの炭素集約度も80%削減する目標です。BTは、責任ある持続可能なビジネスのトップ企業になることを重視してきた結果、営業費用を14%削減し、EBITDAを6%増加させています。

 

3. サプライチェーンの協力とイノベーション
サプライチェーン内のリスクとチャンスに全般的に取り組むには、企業とサプライヤーが協力し合う必要があります。サプライチェーン効率向上への共同投資から製品に使う新しい革新的原材料の開発まで、具体的な方法は様々です。企業購買部門からの支援に裏打ちされていれば、商業上の積極的なインセンティブ(サプライヤーがイノベーションや達成度改善に投資する見返りとして購入を確約するなど)が生まれ、協力的なイニシアティブの強化に役立ちます。

 

サプライヤーとの協力に多額の投資を行った企業の一例として挙げられるのが、英国の大手製薬会社であるGSKです。同社は毎年20億ポンド以上を原料購入に費やしており、バリューチェーン全体のカーボンフットプリントのうち40%以上がここに由来しています。GSKの長期目標は、2050年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを達成することです。しかし、サプライチェーン内のエネルギー消費と炭素排出量を見直したところ、サプライヤーの65%はエネルギー費削減プログラムを特に設けていないことがわかりました。そこでGSKは、サプライヤーの広範な参加を推進するため、エネルギー効率向上や環境への影響低減のベストプラクティスをサプライヤー同士で共有できるオンライン意見交換ネットワークを立ち上げました。その結果、500社を超えるサプライヤーがネットワークに参加しており、2020年にはバリューチェーン全体の炭素排出量を25%削減できる見込みです。この意見交換ネットワークに加え、GSKではサプライヤーの各拠点でエネルギー消費削減講習会を実施し、エネルギー費を20%から30%削減できるエリアを指定しています。

 

4. 炭素を事業戦略の中に取り込む
気候変動や資源枯渇によって予測されているチャンスやリスク、そしてそれらが将来的に与える影響について評価を行っている企業はわずかです。評価をしていない企業は、法規制の改正や需要の変化、技術革新などの打撃を受けやすくなります。しかし、企業取締役会には他にも優先事案が数多くあり、短期事業計画を重視しなければならないというプレッシャーにもさらされています。また、低炭素、ゼロカーボンへの移行から生じるリスクやチャンスを評価、数値化するアプローチや実践的ツールがないという問題もあります。

 

図7 影響される価値の枠組み

図7 影響される価値の枠組み

こうした状況に対応するため、カーボン・トラストは、危機にさらされている企業価値を評価、数値化する方法を開発し、今日の事業計画という地平線を越え、将来に備えてどのような選択肢を用意しておく必要があるのか判断できるようにしました(図7参照)。このアプローチの中では、「通常通り」の状況やリスクやチャンスの原動力のうち、企業の収益やコストに影響する可能性のあるものについて、理解することが必要です。シナリオ分析を通して、企業は異なるリスク・チャンス要因が企業価値に与える影響を評価することができます。そしてこの知見は、ビジネスモデル転換、製品やサービスの変更、技術投資など、適切な戦略を考案することに役立ちます。

 

 

 

日英低炭素化協力体制の視点

ビジネスは、持続可能な低炭素経済達成の道筋をどうやって辿ればよいか、真剣に考える必要があります。変化はチャンスとリスクの両方を生み出し、そこでは勝ち組と負け組が出てくるでしょう。そのため、企業は低炭素社会への移行を達成するための合理的な道筋を示すロードマップを作成する必要があります。しかし、何が正しい戦略か常に明らかであるとは限らず、また各企業の置かれた状況や事業の背景に合わせた戦略策定が必須です。

 

ひとつはっきりしていることは、気候変動に関して検討も行動もせず今まで通りのやり方を続けるアプローチはリスクが高いという点です。これは特にグローバル企業に言えることで、日本の企業も例外ではありません。

 

日本と英国は何十年も事業提携や投資を行ってきた歴史があり、そうした協力関係を低炭素経済への移行にも拡大するまたとない機会が存在します。例えば、再生可能、低炭素技術といった分野、そして気候変動に取り組む上でビジネスが果たす役割について共通のビジョン創造などが挙げられます。日英間にすでに確立されている政策協力という強固な土台が、この取り組みを支えるでしょう。

 

図8 低炭素経済移行の企業ロードマップ

図8 低炭素経済移行の企業ロードマップ

 


 

カーボン・トラストについて
カーボン・トラストのミッションは、持続可能な低炭素経済への移行を促進することです。世界各国の企業や政府とともに、再生可能エネルギー技術、サプライチェーン、グリーン金融、都市などの分野で戦略やプログラムの策定と実施を進めています。カーボン・トラストに関する詳細情報については、公式サイト(英語)をご覧ください。

 

本稿の原文(PDF・1.51MB)

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