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病気に関与した諸情報を統合し、臨床に用いる

  • 19 November 2015
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イアン・ウィルソン教授のプレゼンテーション「薬剤効果や毒性を予測するためのマーカー探索とメタボロミクス」

 

秋も深まってきた2015年10月29日(木)、東京大学医学部附属病院の最上階にて、「クリニカル・トランスレーショナルリサーチシンポジウム ~ 世界の動向:英国に学ぶ Metabolic Phenotyping for Precision Medicine ~」が開催されました。病気の多くは遺伝的要因と、食事や習慣などの環境要因とが複雑に関係し合って発症に至ります。背景にある様々な要素を切り分け、抽出し、統合して診断や治療に用いるのは容易ではありません。この難題に向けて、最新技術を多角的に用いる試みが始まっています。

 

「表現型を分子レベルでシステマティックに解析」Professor Jeremy K. Nicholson(Head of Department of Surgery and Cancer, Director, MRC-NIHR Phenome Centre)

髪や目の色、身長などは、持って生まれた遺伝子の影響が大きいことが知られています。このように、遺伝子のタイプが形質としてあらわれたものを、「表現型(フェノタイプ:phenotype)」といいます。病気や体質にもフェノタイプと呼べるものがあります。例えば、がん、2型糖尿病、心筋梗塞、肥満、血圧などです。これらは、持って生まれた遺伝子だけでなく、腸や口腔内に住み着く微生物群(マイクロバオーム)の遺伝子にも影響されることがわかってきています。例えば、同じアフリカ系の人種でも、アメリカ在住の人はアフリカ在住の人よりも大腸がんが40%も多いのですが、その原因は食生活がもたらすマイクロバイオームの違いによると考えられています。

 

ジェレミー・ニコルソン教授

私たちの体内に住み着くマイクロバイオーム由来の遺伝子を合わせると、500万種に及ぶとされています。ニコールソン教授は、これらの微生物群が作り出す物質(代謝産物)を、質量分析、NMR(核磁気共鳴)などを使って調べ、得られた成果を臨床医学に結びつけようとしています。「私たちは、学術と臨床の両方の研究拠点を持っており、技術開発と臨床化を同時に進めることができます。例えば、手術室内で患部を切開した際に発生する煙(気体)を迅速に質量分析する試みや、切り取った腫瘍を成分や代謝物ごとに3Dでマッピングする技術などを進めています」とニコールソン教授は語りました。多くの人が健康で100歳を迎えられるようにすることが夢だと話しました。

 

「薬剤効果や毒性を予測するためのマーカー探索とメタボロミクス」Professor Ian D Wilson(Professor of Drug Metabolism & Molecular Toxicology, Department of Surgery and Cancer, Imperial College London)

製薬会社での研究生活が長かったというウィルソン教授は、代謝産物の解析(メタボロミクス)によって、薬の効果や肝臓への毒性(肝毒性)を推定するためのマーカー探索を進めています。その一つがマウスを使った関節リウマチのマーカー探索です。手足の関節が腫れて痛む関節リウマチには、炎症物質と結合することで症状を抑えるレミケードという薬剤が使われています。「未治療の関節リウマチマウス、レミケードで治療したマウス、正常なマウスの3グループを対象に、遺伝子、尿、後ろ足の組織などで、生直後から時間を追って代謝産物を分析し、プロファイルをグラフ化しました」とウィルソン教授は話しました。その結果、これまで重要視されていなかったイタコン酸という物質の量が炎症の強さとリンクしていることがわかり、診断や治療効果判定に使えそうだと語りました。

 

さらにウィルソン教授は、パラセタモールという毒が解毒される際の代謝を調べることで、肝毒性の指標になる物質の探索も行っています。「5オキソプロリンという物質が使えそうです」と紹介し、「代謝産物マップを作りましたが、これは東京の鉄道路線図のようなもの。路線図だけでは時間や収容人数がわからないように、代謝産物マップだけでは反応時間や量はわかりません。今はその予測のための方程式作りを急いでいます」とまとめました。

 

「ヘプシジンをマーカーに用いた鉄代謝の制御」Professor Robert Trengove(Murdoch University, Advanced Mass Spectrometry Facility; Separation Science & Metabolomics Laboratory; Metabolomics Australia WA Node)

鉄は赤血球と結合して酸素を運ぶなど、私たちの健康に欠かせない一方で、臓器や組織に沈着・滞留すると深刻な障害を引き起こします。トレンゴーブ教授は、鉄の吸収や遊離に寄与するヘプシジンというホルモンをマーカーに用いることで、鉄過剰症を診断する技術を開発しています。「末梢血と尿の質量分析を行ったところ、ヘプシジンには少しだけ構造の異なる何種類ものアイソフォームがあることがわかりました」とトレンゴーブ氏は話しました。その中には、機能が不明なものもあり解析中とのことですが、構造の一部をまねて化学合成した「ミニヘプシジン」を貧血などの治療に用いる研究を始めているそうです。

 

トレンゴーブ教授は、病院のICUに隣接されたラボにおいて、敗血症の診断に使えるマーカーの探索も進めています。重症の患者さんにとって敗血症は命取りです。ところが、敗血症の兆候や重症度を見極めるのは非常に難しいそうです。「敗血症に至るまでにどのような代謝がなされ、代謝産物がもたらされるのかもよくわかっていません。道のりは長いですが、研究を続けます」と語りました。

 

「あらゆる階層の解析を統合するマルチオミクスと臨床医療」加藤規弘教授(国立国際医療研究センター研究所 遺伝子診断治療開発研究部 部長)

ヒトゲノム計画が完了し、ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームと、階層的に解析が進むようになりました。結果、「ある点」においては非常に精度の高い情報を得られるようになっていますが、一方で、各階層のデータを統合して解釈する技術が十分ではないという問題にぶつかるようになりました。加藤教授は、このような様々な階層の解析をマルチオミクスとして統合し、高血圧や2型糖尿病などの病気(フェノタイプ)と関連づけようとしています。

 

「マルチオミクスにはGWASも組み込んでいます。例えば、血圧の調節は神経系やホルモンなどが関与し、非常に複雑です。血圧に関連する遺伝子は、私たちのシミュレーションでは2000、GWASで400も出てきました。このうち、血圧制御の中心的なパスウェイにあるものを52個抽出し、臨床でどう使えるかを検討しています」と加藤教授は話しました。ただし、血圧を下げているのに脳いっ血が防げないなどの症例もあるそうで、まだ解析結果をつなぎきれていないと結びました。

 

日本では、フェノタイプを重要視したシステマティックなアプローチは「まだまだこれから」という状況ですが、英国などの前例に学び、早急に進めてほしいと強く感じました。

 

サイエンスライター 西村 尚子

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