MENU

INNOVATION IS GREAT
FacebookTwitterGoogleLinkedIn
Feed
英国進出、輸入や研究連携へのお問い合わせ
Mail

CONTENTS

HOME > BLOG > ロンドン科学博物館による、イノベーションとサイエンス・コミュニケーション

ロンドン科学博物館による、イノベーションとサイエンス・コミュニケーション

  • 21 January 2016
  • Feed

夜になると、街のあちこちがLEDのイルミネーションに縁取られます。ご存知のように、LEDの開発と実用化に貢献した名城大学の赤崎勇教授、名古屋大学の天野浩教授、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授の3人には、2014年にノーベル物理学賞が授与されました。意識することは少ないかもしれませんが、科学や技術のイノベーションは、私たちの日常生活に深く関与しています。その意味で科学博物館は、科学や技術と私たちを結びつけてくれる貴重な場と言えます。

 

2015年12月3日(木)、駐日英国大使館において、同大使館と東京工業大学(以下、東工大)との共催セミナー「サイエンス・コミュニケーションにおけるイノベーション:ロンドン科学博物館による実践的取り組み」が開かれました。東工大学長の三島良直氏と共に、登壇者としてロンドン科学博物館より2人、日本からも2人が参加しました。東工大の学生さんやブリティッシュ・スクールの高校生、メディア関係者が来館し、映像を交えた興味深い講演とディスカッションが行われました。

 

考えつく限りの仕掛けを用意

ロンドン科学博物館 シニア展示マネージャー スーザン・モスマン博士

ロンドン科学博物館 シニア展示マネージャー
スーザン・モスマン博士

はじめに登壇したのは、ロンドン科学博物館 シニア展示マネージャーのスーザン・モスマン博士です。先端材料技術学で修士号、考古金属工学で博士号を取得し、現在は同博物館において、科学技術から医学までの多岐に渡る展覧会のプロジェクト監督を務めています。「ロンドン科学博物館は、サウスケンジントン博物館の一部として設立され、1909年に独立しました。現在は30万もの展示品を有し、1年に約330万人が来館しています。コレクションは、ごく小さなものから、産業機械や飛行機などの超大型のものまでいろいろです。英国人は平均して一生に3回、どこかのタイミングでロンドン科学博物館に足を運んでいます」と自身が働く博物館について紹介しました。

 

モスマン博士は、クラシカルな陳列による展示だけではなく、科学を専門としない人や、幅広い国籍・年代・背景を持った人々が楽しめる「参加型の展示やイベント」の重要性について、情報化社会をキーワードに説明しました。「例えば、カメルーンと協働し、現地の電話ボックスを館内に持ち込んで再現したことがあります。検疫などで苦労しましたが、好評を得ました」

 

ここでモスマン博士が強調したのは、学術的な正しさと共に「魅力的に展示すること」に力を入れる点です。さらに、「トヨタの電気自動車などの実物展示、ロンドンオリンピックの聖火台を作ったアーティストとの対話、館内で使用済みの発泡プラスチックを集めたゴミのリサイクル体験、アインシュタインのドイツ語訛りの肉声を収録した映画の上映など、考えつく限りの興味を持っていただく仕掛けを行っています」とまとめました。

 

あらゆる年代と立場の人が楽しめるプログラムづくりとは?

ロンドン科学博物館 インタラクティブ・ ギャラリー/Explainer チームリーダー ジン・ナーワル氏

ロンドン科学博物館 インタラクティブ・ ギャラリー/Explainer チームリーダー ジン・ナーワル氏

続いて、同じくロンドン科学博物館において、インタラクティブ・ギャラリーと博物館のExplainer(解説担当者)のチームリーダーを務めるジン・ナーワル氏が登壇しました。「ロンドン科学博物館は学校単位の集団訪問も受け入れており、グループ訪問による学生の来館者数は毎年60万人に達します。一方、何らかの事情で来館できない人向けのプログラムも用意しています」とナーワル氏。

体験型のギャラリー、グループ訪問した児童向けのライブデモンストレーション、低学年向けのお話会から、月に1度の、閉館後に大人だけを対象に開かれるアクティビティー、さらに自閉症や聴覚障害などの障害別に対象者を絞ったプログラムまであるそうで、充実ぶりがうらやましくなるほどでした。

 

「体験型プログラムでは、スタッフと共にゴキブリの鎧をかぶって館内を巡ってもらい、気候変動によって人類が絶滅した後の時代を体験してもらったこともあります。あまり好評ではありませんでしたが・・・。大人向けのアクティビティーでは、顕微鏡をのぞく、お菓子のゼリーでDNAを作るといった体験を夜遊びの延長として楽しんでいただいています。また、大勢の人といることが苦手な自閉症の子どもを対象にした、早朝に一定数だけ参加できるプログラムも設けています」とナーワル氏は話しました。

 

ナーワル氏が率いるのは、60人のExplainerからなる大きなチームです。「スタッフのバックグラウンドは、教育関係、科学、軍関係など様々です。採用にあたっては、いかにポジティブに人とコミュニケーションを取れるかを重要視しています」と話し、科学が日々の生活とつながっていることを実感してほしいと結びました。

 

フックと対話で、意図を伝える努力を

日本科学未来館 科学コミュニケーション専門主任 池辺 靖氏

日本科学未来館 科学コミュニケーション専門主任 池辺 靖氏

次に、日本科学未来館で科学コミュニケーション専門主任を務める池辺靖氏が、日本の状況を紹介しました。未来館は、博物館ではなく科学館なのでコレクションはありませんが、科学や技術に関する展示と実演、体験型プログラムを提供しています。

 

 

 

 

 

宇宙物理学の研究を経て現職に就いた池辺氏は、「着任してまず、アインシュタインの数式の素晴らしさを展示物にしたいと主張しましたが、スタッフに全く意図が伝わりませんでした。その後、燃料の8割が熱としてロスされる自動車と省エネについて考えてほしいと思い、慶應義塾大学が開発した電気自動車を展示したのですが、車マニアが集まって盛り上がるだけでした。来館者の鏡には『いつもの自分』しか写っていないと言うべき状況でした」と話しました。これらの経験を通じ、企画者の意図を伝えるのがいかに困難かを思い知らされたそうです。

 

着任後2年あまりを費やしてわかったのは、興味を持ってもらうには「フック(きっかけ)」が重要であり、そして対話が効果的だということだそうです。「未来館には多くの科学コミュニケーターがいますが、全員が観察力、探求心、好奇心、対話力を高め、来館者との対話でフックをみつける努力をしています。ロールプレイングを用いた対話型授業、サイエンスカフェ、市民レベルの世界的な会議(ワールドワイドビューズ)なども企画し、来館者に『鏡に写った自分が変わっていること』に気づいてもらえるようにしたい」と結びました。

 

和気あいあいとしたパネルディスカッション

左からスーザン・モスマン博士、ジン・ナーワル氏、池辺 靖氏、大竹 暁氏

左からスーザン・モスマン博士、ジン・ナーワル氏、
池辺 靖氏、大竹 暁氏

講演の後は、科学技術振興機構(以下、JST)上席フェローの大竹暁氏が加わり、4人のパネラーによるディスカッションが行われました。冒頭では、大竹氏が社会と科学をつなぐJSTのミッションについて紹介しました。「科学は万能ではなく、100%安全でもありません。リスクと利益のバランスをどう取るのか。市民、研究者、政策責任者といった多様な立場の人による議論が重要です」と語りました。

 

 

 

 

ディスカッションは、参加者からの質問を受け付ける形で進みました。「年配層に科学について興味を持ってもらうにはどうしたら良いのか?」との質問に対しモスマン博士は、「大人や年配者が館内をどのように巡るのか、傾向を調べて対応しています」と回答。池辺氏は、「科学は個人の価値観を作るために重要だということを再認識してもらうのが必要でしょう。誰もが基礎科学を学ぶことで、将来、何らかのパラダイムシフトがやってくるといったことも理解できるようになります」と答えました。

 

また、東工大の学生からは「対話力を身につけるには、どのようなトレーニングが良いのか?」といった質問もありました。池辺氏は、「私見ですが、想像力を育て、言語化、シェア体験をすべきでしょう。2011年の東京電力福島第二原子力発電所の事故後に、一部の研究者が『自分の専門外なのでコメントできない』と発言しましたが、このような態度は広く議論する場では役に立ちません」と述べました。大竹氏は、「日英では、科学についての教育や教科書に大きな違いがあり、日本では対話や議論の前に数式を持ってきてしまうので、理科嫌いを作ってしまいます。その意味で東工大には、社会化された専門家を育てる教育を期待しています」と話しました。

 

最後は、東工大学長の三島良直氏が挨拶し、東工大とロンドン科学博物館の提携が10周年を迎えたことや、2017年4月に学内の教育体系を改革することなどについて紹介しました。「東工大も科学コミュニケーションのコースを設けており、今後も科学技術分野のリーダーとして海外協力を進めていきます」と話し、閉会となりました。

 

サイエンスライター 西村 尚子

 

関連リンク:
ロンドン科学博物館公式サイト(英語)

MENU