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300年ぶりの「ロンジチュード賞」、薬剤耐性菌問題に寄与する画期的技術を募集

  • 28 January 2016
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感染症というと、何を思い浮かべるでしょうか?すでに流行期に入っているインフルエンザやノロでしょうか?世界を見渡すと、2014年から2015年にかけては、西アフリカでエボラ出血熱が大流行し、韓国ではMERS(中東呼吸器症候群)が猛威をふるいました。もちろん、これらの問題は重大なのですが、ブドウ球菌や腸球菌などのありふれた細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得してしまう「薬剤耐性菌問題」が多発し、こちらも深刻になっています。駐日英国大使館でも薬剤耐性菌の問題を重く受け止め、2015年12月22日(火)に、英国が「薬剤耐性菌の撲滅と抗菌薬の適切な使用」を推進するために設けたロンジチュード賞(Longitude Prize)に関するセミナー「薬剤耐性菌撲滅にむけた革新的グローバルヘルスケアへの挑戦」を開催しました。当日は、日本国内で創薬、医療機器開発に携わる企業や大学、研究機関の研究者で満席のなか、英国から3人、日本から4人の専門家を登壇者として迎えました。

 

開会にあたって、厚生労働省 技術総括審議官の鈴木康裕氏が挨拶しました。まず、「2015年は先進7ヶ国(G7)において、薬剤耐性菌の拡散を防ぐために、各国の協力による新薬開発、家畜等への不適切な使用の削減について協議されました。2016年には日本で伊勢志摩サミットが開催されますが、ここでも薬剤耐性菌問題は重要な議題になると考えています」と話し、今回のセミナーの主賓であるピーター・ピオット氏について、「私の長年の友人です。エボラウイルスを発見した偉大な科学者ですが、日本料理やカラオケを愛する一面もお持ちだと聞いています」と紹介しました。

 

300年の時を超えて再開されるロンジチュード賞

ロンドン大学 衛生・熱帯医学大学院 学長 ピーター・ピオット氏

ロンドン大学 衛生・熱帯医学大学院 学長
ピーター・ピオット氏

ピーター・ピオット氏は、ロンドン大学 衛生・熱帯医学大学院の学長を務め、世界のエイズ対策を主導するなど、国際的な感染症対応を牽引してきました。例えば、1970年代にザイール(現コンゴ民主共和国)に赴いて、未知の病であったエボラ出血熱の原因ウイルスを発見し、1980年代には世界的に流行し始めていたエイズ対策に取り組んできました。その後、UNAIDS(国連合同エイズ計画)の事務局長、インペリアル・カレッジ・ロンドンの教授などを経て現職に就いています。多忙の合間を縫って登壇したピオット氏は、まずロンジチュード賞について、次のように説明しました。

 

 

 

「ロンジチュード賞の歴史は、1714年にさかのぼります。この年、英国政府は問題を抱えていた航海技術を高めようと、『船の位置の経度を1度以内の誤差で測定すれば1万ポンド、0.5度以内なら2万ポンドの懸賞金を与える』などとした経度法を制定しました。当時の2万ポンドは、現在では約200万ポンドにもなります。受賞者が決まるまでに、実に40年を要し、時計職人のジョン・ハリソン氏に授与されました」。開発された時計は、揺れや温度変化に左右されない高精度なゼンマイで動く機械式時計で「クロノメーター」と名付けられました。20世紀になって国際的にも標準化されましたが、現在ではクォーツ式に取って代わっています。

 

2014年、英国政府は経度法の制定300周年を記念し、新たなロンジチュード賞を設けることを決めました。そして、BBCとAmazonの支援を受ける形で、800万ポンドもの賞金が用意されました。テーマである「薬剤耐性菌問題」は、一般投票により選ばれたものです。「賞金獲得者は1人。審査は、抗菌薬使用の方法、期間、種類、細菌を確定するための技術開発、新たな抗菌薬の研究開発などを対象にし、5年に渡って行われます」

 

最後にピオット氏は、今回の賞と薬剤耐性菌の現状について、次のようにまとめました。「細菌などの微生物は、ストレスを与えるほど生き延びようと変異します。つまり、ヒトや家畜に必要以上の抗菌薬を与えると、それがストレスとなり、既存の抗菌薬では死ななくなるのです。EUではこの問題にすでに15億ユーロもの大金を投じており、政治的にも優先度の高い問題になっています。これは、医療、農業、環境などの多岐に渡るグローバルな問題です。ヒトへの処方や家畜への使用の見直しも重要ですが、本日このセミナーに参加されているみなさまには、積極的に本賞へのエントリーをお考えいただき、日本の高い研究開発力を世界に生かしてほしいと願っています」

 

エントリーと審査基準について

NESTA タマー・ゴッシュ氏

NESTA タマー・ゴッシュ氏

続いて、ロンジチュード賞へのエントリーについて、事務局を務めるNESTA(ネスタ)のタマー・ゴッシュ氏が詳しく説明しました。ゴッシュ氏は、「2019年まで年に2回、エントリーのチャンスがあり、2015年分としてはすでに120チームの応募を受け付けました。今は厳しい審査を経て、12チームが次の段階に進んでいる状況です」と紹介し、審査にあたって以下のような条件があるとしました。

 

 

 

 

 

  1. 必要性が高く、グローバルに展開できること。
  2. 使用が容易なこと。医師だけでなく、医療従事者や場合によっては患者自身が使えるなど。
  3. 精度が高いこと。
  4. 経済的なこと。例えば、インドでも使用可能な価格設定である。また、エネルギー消費が小さいことなど。
  5. 迅速であること。例えば、感染の有無なら30分以内で診断できるなど。
  6. 規模の拡大や縮小が可能であること。産業として成り立つように。
  7. 安全であること。

 

エントリーは4ヶ月ごとに指定された提出日であれば、いつでも可能だそうです。簡単に決着するプロセスではありませんが、受賞者が決まったところで終了となります。ゴッシュ氏は「日本の研究者、企業、発明家のみなさま、ぜひご参加ください」と結びました。

 

ここで、GRIPS(政策研究大学院大学)アカデミックフェローの黒川清氏が、「話だけ聞くと、クレイジーとも思えるロンジチュード賞ですが、だからこそやる価値があるとも言えます。大幅な予定前倒しで完了したヒトゲノム計画は、競争と協力によって成し遂げられました。今回も、既成概念にとらわれず、異分野のパートナーとチームを組むなどしてトライしてほしいと思います」と参加者を激励しました。

 

薬剤耐性菌をめぐる日本の状況

国立感染症研究所 所長 倉根 一郎氏

国立感染症研究所 所長 倉根 一郎氏

その後は、簡単な質疑応答を経て、国立感染症研究所 所長の倉根一郎氏、東邦大学 看護学部教授の小林寅喆氏が、それぞれの専門の立場で講演しました。倉根氏は国立感染症研究所の役割とJANIS(厚生労働省院感染対策サーベイランス)の事業について紹介。薬剤耐性菌問題が深刻化している院内感染について、次のように話しました。「JANISの事業は、多くの病院に登録いただくことで進んでいます。2014年には150万ものサンプルを収集し、呼吸器だけも90万の菌株を分離しました。分離株は耐性菌かどうかも解析し、48時間後には、各病院が自身のデータを見られるようにしています」

 

 

 

東邦大学 看護学部教授 小林 寅喆氏

東邦大学 看護学部 教授 小林 寅喆氏

小林氏は、日常的な環境に存在する病原微生物を対象に、性質、分布、伝播などについて研究しています。今回は、グローバルリスク報告書2014年版で薬剤耐性菌問題が「ヒトの健康に重大な影響を及ぼす」として取り上げられたことを紹介し、2014年にご自身で経験した「療養施設でのカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の7症例」について、次のように話しました。

 

 

 

 

 

「驚いたのは、7例とも同じ菌株で、病院内ではなく、療養施設等での"市中感染"だったことです。今や、薬剤耐性菌は病院内だけの問題ではなく、日常の問題になっているのです」。CREは、遺伝子の変異によって「ほぼ全ての細菌に対して効くはずのカルバペネム系抗生物質」を分解する能力を獲得しています。その結果、通常ならカルバペネム投与で治癒するはずの尿路感染症や呼吸器感染症が治らず、敗血症などに進行して死亡する例が増えているのです。

 

講演後は、質疑応答を含めたパネルディスカッションと、お茶やワインを飲みながらのレセプションパーティーが和やかに行われました。

 

サイエンスライター 西村 尚子

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