MENU

INNOVATION IS GREAT
FacebookTwitterGoogleLinkedIn
Feed
英国進出、輸入や研究連携へのお問い合わせ
Mail

CONTENTS

HOME > BLOG > 日英における認知症施策や認知症研究についてのセミナー開催レポート

日英における認知症施策や認知症研究についてのセミナー開催レポート

  • 16 March 2017
  • Feed

ブログでもお知らせした、一連の認知症セミナーが終わりました。いずれの会場も満席に近く、情報共有や意見交換なども積極的に行われました。一部ですが、2017年2月15日(水)「日本・スコットランド認知症セミナー」と2月20日(月)「英国認知症研究セミナー」についてのレポートをお届けします。
 


 
日本・スコットランド認知症セミナー

 

日本・スコットランド認知症セミナーで基調講演を行う、スコットランド政府文化・観光・対外関係大臣 フィオナ・ヒスロップ氏厳しい寒さが少し緩み、おだやかな晴天の中での開催となりました。冒頭で、ポール・マデン駐日英国大使による挨拶があり、まず、スコットランド政府文化・観光・対外関係大臣のフィオナ・ヒスロップ氏が登壇。スコットランドの認知症政策についての基調講演を行いました。「スコットランド政府は、世界で初めて国連障害者権利条約に準拠した『権利に基づくアプローチ(Rights–Based Approach)』を取り入れた認知症政策を進めています。2009年に『認知症の本人と家族の権利憲章』を策定し、2010年には認知症当事者のグループと協働して第1次認知症国家戦略をスタートさせました。その後、リンクワーカーによる診断後支援を制度化させた第2次認知症国家戦略を経て、まもなく第3次認知症国家戦略案が示される予定です」と同氏。

 

当事者の視点を重要視する日本の施策

東京都長寿医療センター研究所 研究部長 粟田主一氏さらに、井藤英喜 東京都健康長寿医療センター理事長ら3名による挨拶が続き、東京都長寿医療センター研究所 研究部長の粟田主一氏が「日本と東京の認知症施策 Dementia Friendly Communitiesに向けて」と題した講演を行いました。まず、2040年頃には人口の35%が高齢者という時代に突入し、認知症も増加の一途をたどると説明。「地域の認知症サポーター、認知症サポート医の養成、かかりつけ医の認知症対応力の向上などをはかり、地域単位で統合して機能できるようにするのが課題です」と話しました。

 

そのうえで、2013年に始まった厚生労働省による「認知症施策推進5カ年計画 オレンジプラン」について概説しました。「認知症になっても本人の意思が尊重され、住み慣れた地域で暮らし続けるためのポリシー、たとえば『標準的な認知症ケアパスの作成・普及』、『早期診断・早期対応』、『地域で生活を支える医療サービスの構築』などが策定されました」と粟田氏。さらに、2015年に、このオレンジプランが「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略 認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて)」に改められた旨を紹介し、「日本認知症ワーキンググループの活動がきっかけとなり、認知症当事者同士のミーティングが開かれるようになり、その視点が重要視されるようになったのが特徴です」と話しました。

 

誰でもなりうる、できることもたくさんある

「おれんじドア」実行委員会代表 丹野智文氏続いて、認知症当事者である丹野智文氏が、本当に必要なサポートは何なのかについて、自らの体験をもとに講演しました。宮城県仙台市在住の同氏は、認知症と診断された人の相談窓口「おれんじドア」を作り、その代表を務めています。「私は大学卒業後に自動車販売の営業をしていましたが、39歳の時にお客さんの顔がわからなくなり、若年性アルツハイマー症と診断されました。はじめは不安で泣いてばかりいましたが、アルツハイマー症の人々やサポーターと出会うことで少しずつ不安が解消されていきました。昨年9月にはスコットランドを訪問し、症状が進んでも自立しようと考えている当事者やそれを支えるリンクワーカーが、日本とは大きく違うと感じました」と丹野氏。

 

さらに、「多くの当事者と知り合い、安心することで症状の進行も遅くなるような気がするのです。今までのようにはいかない、と良い意味であきらめることも重要です。病院の薬だけでなく、安心して暮らせる環境が必要です。認知症は恥ずべき病気ではありません。誰でもなりうるし、できることもたくさんあります。日本とスコットランドの良いところを合わせて、日英の協力が進むことを望みます」と結びました。

 

権利に基づくアプローチを

スターリング大学ディメンシア・サービス・ディベロップメントセンター ルイーズ・マケイブ氏短い休憩をはさみ、後半はまず、スコットランドの国立大学であるスターリング大学ディメンシア・サービス・ディベロップメントセンターのルイーズ・マケイブ氏が登壇。「認知症当事者の脳内では変化が進み、認知機能の低下、孤立、仕事・社会ネットワーク・自尊心の喪失などに見舞われます。ケアは当事者の権利を中心に据えて行われるべきです。快適な食事や生活空間を保障し、意思決定に当事者自ら関与してもらう、主体的に行動する権利を守る姿勢が重要です」と同氏。

 

一方で、居住地域、人種、性的マイノリティーなどの区別なく、権利に基づくアプローチがなされるよう取り組みを進めるべきであること、居住空間をシンプルにして動きやすさや方向のわかりやすさ、自然光などを大切にすべきであることについても言及しました。最後は、スターリング大学が出版した認知症関連の冊子を紹介し、「日本語翻訳版もアマゾンで購入することができます」と結びました。

 


 

英国認知症研究セミナー

 

2月20日(月)には「英国の認知症研究イニシアティブと最新の研究活動」と題した、午前中から夕方遅くにおよぶ長時間のセミナーも開かれました。脳神経科学、心理学などの領域において英国を代表する7名の専門家が来日し、取り組み、課題、展望について講演しました。

 

情報を集約して、効果のある治療法の開発を

医学研究会議(MRC)英国認知症プラットフォームディレクター ジョン・ギャラカー氏駐日英国大使のマデン氏と厚生労働省 老健局 認知症対策専門官の大田秀隆氏による挨拶の後、まず、医学研究会議(MRC)英国認知症プラットフォームディレクターのジョン・ギャラカー氏が「集約された認知症研究環境」と題して話をしました。オックスフォード大学やカーディフ大学などで高齢化と認知症の研究を続けてきた同氏は、両親・こども縦断調査研究(ALSPAC)の科学評議会会長を務め、英国バイオバンク運営委員会のメンバーとして認知心理学的アセスメントも行っています。

 

はじめにギャラカー氏は、英国における認知症の診断と治験システムについて概説。「病院で認知症と診断されると投薬治療などが始まりますが、初期の認知症に対して確実に効く薬物はありません。私たちは、血圧などの認知症のリスクや進行と関連しそうな因子についてコホート研究を進めるとともに、細胞や分子レベルで認知症を食い止められるような創薬と治験を進めたいと考えています」と同氏。

 

さらにギャラカー氏は、「特に重要なのは、薬のターゲットとなる生体分子の探索と同定です。そのため、2019年開所予定の英国認知症研究所には2億5,000万ポンドの拠出が発表されており、私たちの認知症プラットフォームでも、高速データアクセス、データプロセシング、標準化などをはかることで、低コストで最大の成果を得られるようなインフラ整備を進めています」と続けました。ヨーロッパのみならず、アジア太平洋地域でも企業などとのパートナーシップを強化する予定で、日本の企業や当事者とも情報や技術を共有したいと結びました。

 

チャリティーを充実させ、社会的ケアの向上を

英国アルツハイマー病協会会長 ジェレミー・ヒューズ氏次は、英国アルツハイマー病協会会長のジェレミー・ヒューズ氏が「英国の認知症研究—よりよいケアと治療のために」とのテーマで講演しました。同氏は、乳がんや筋肉性難病などのチャリティー団体の要職を経験し、現在は、英首相が率いる認知症フレンドリー・コミュニティー・チャンピオングループの統括、英認知症アクションアライアンスの共同議長、グローバル・アルツハイマー・認知症アクションアライアンスの議長、世界認知症委員会(WDC)のメンバーなどを務めています。

 

「認知症は3秒に1人発症しているとされます。先進国だけでなく、世界中のどこにいても十分な社会的ケアを受けられるようにしなくてはなりませんが、認知症研究への投資はがん研究のようには進んでいません。寄付金を募り、適切に資金分配することが求められています」とヒューズ氏。とくに、発症を食い止めるための研究、より効き目の確かな治療薬の開発、研究効率の向上、自宅介護者のうつ病治療の4つを重点課題に据え、様々な組織と連携することで120ものプロジェクトを推進中だとしました。

 

日本でも認知症研究は重要課題の一つ

日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部 脳と心の研究課 課長代理 小久保学氏ここで、日本側代表として日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部 脳と心の研究課 課長代理 小久保学氏が登壇しました。同氏は名古屋大学医学部において循環器内科を専攻し、2012年より国立長寿医療研究センターに赴任。血圧変動と大脳白質病変についての研究を行い、2016年よりAMEDに出向しています。

 

 

小久保氏はまず、基礎研究と応用研究を橋渡しし、省庁ごとにバラバラだった予算統合を行うAMEDの役割について説明し、創薬、医療機器開発、産学連携、再生医療などの優先分野があるとしました。「そのうちの1つが、私の担当する脳と心の分野になります。うつ病と認知症をはじめとする精神・神経疾患を扱い、分子レベルの創薬ターゲットを探索し、2025年までに新たな治療法に結びつけるのが目標です」と同氏。さらに、日本における認知症施策の経緯と地域ケアの重要性、厚生労働省による新オレンジプラン、自治体の取り組み例などについても言及しました。最後は、「グローバルにパートナーを探しているところでもありますので、本セミナーにより日英のパートナーシップが強化されることを祈ります」とまとめました。

 

 

パネルディスカッション「認知症研究推進のための日英コラボレーションの展望」の様子その後に行われたパネルディスカッション「認知症研究推進のための日英コラボレーションの展望」では、スピーカーに加え、新たにモデレーターとして岡山大学の狩野光伸氏(World Young Leaders in Dementiaメンバー)、パネリストに日本医療政策機構の乗竹亮治氏を迎え、非常に示唆に富んだ議論が展開されました。日英間での革新的な政策の共有、データ共有、セルバンクや疾患モデルへのアクセスの共有、より良いモニタリングとケアのための技術研究協力など、コラボレーションの多くのアイデアが出されました。そして、学際的な話し合い、官民パートナーシップ、両国の相互補完的な研究分野などについて更に話し合いを進めるためのフォローアップを望む声が数多く聞かれました。

 

本セミナーに先立ち、2月1日に英国医学研究会議(MRC)と日本医療研究開発機構(AMED)は、医療研究開発での日英パートナーシップを前進させるための協力に関する覚書に調印しました。研究協力の優先領域として、再生医療、薬剤体制・感染症と並んで、認知症が挙げられており、両国間での研究協力の更なる促進が期待されます。

 

サイエンスライター 西村 尚子

MENU