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テックシティとカタパルトにみる英国のアントレプレナーシップ

  • 05 November 2015
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シャード・ロンドン・ブリッジ

 

サポート体制が整った英国のアントレプレナーシップ

スタートアップ企業の新たな集積地としてロンドンが今、注目を集めています。スタートアップ企業の評価分析で知られるCompassが、2015年7月に発表した「スタートアップ・エコシステム・レポート(英語)」でロンドンは世界6位、ヨーロッパ1位のスタートアップ・エコシステムを持つ都市という評価を得ました。

 

スタートアップ・エコシステムとは、「スタートアップ企業が健全に栄える総合的な環境」を意味ですが、このレポートでは、資金調達、人材、マーケットリーチなど複数の角度から各地のエコシステムを評価しています。20年ほど前までは、スタートアップの拠点はほとんどシリコンバレーやボストンに集中していたものの、今ではアメリカ以外の世界各地に広がっていることを、このレポートは報告しています。その中でも、特に急激にその存在感を高めているのがロンドンなのです。

 

ロンドンでは5年ほど前に、「テックシティ(Tech City)」と呼ばれるスタートアップの集積エリアが生まれました。テックシティは、「シティ」と呼ばれるロンドン中心部の東側、イースト・ロンドンに広がっています。元はあまり治安が良くないエリアだったのですが、今や英国の、そして世界のIT産業の新しい拠点の一つになろうとしています。テックシティについては後ほど詳しく紹介しますが、世界の中でもロンドンは今、起業がとても活発な都市になっています。そしてロンドンを要に、英国全体でそのような機運が高まっているのです。

 

なぜ英国がこのように、起業、つまりアントレプレナーシップで優れた国になったのでしょうか。その点については、前回の記事「英国におけるアントレプレナーシップ教育」に書いた通り、英国が過去に大企業中心の経済から新興企業中心の経済へシフトすることによって、経済の低迷から抜け出すことに成功したという経験が根底にあるのだろうと考えられます。しかしながら、直接的にはとにかく現在、政府によるアントレプレナーシップ支援策が非常に積極的であるためだと言えそうです。その一つの例が前回紹介した、ハイテク企業が地元の大学と手を組んで活性化を図る、「University Enterprise Zones(UEZs)」です。他にもそのような取り組みは複数あり、今回は先の「テックシティ」、そして「カタパルト(Catapult)」についてご紹介します。

 

一つのラウンドアバウトが、ITのメッカ「テックシティ」に

ロンドン市の東側、イースト・ロンドンにはオールド・ストリートという通りがあります。元々あまりきれいとは言えなかったその場所には、2008年頃、ITやデザインの会社が十数社あり、そこにラウンドアバウト(英国に多くある円形交差点)があったことから、「シリコン・ラウンドアバウト」と呼ばれるようになりました。

 

シリコン・ラウンドアバウトは、ロンドンの中心地に近いながらもあまり評判の良いエリアではなかったために、家賃が安く、仕事に使える空間も余っていました。そこに徐々にアーティストらが集まるようになり、それに続くように様々な分野の人々が集まり出し、カフェなどの店ができ、若い人たちが中心となったクリエイティブな環境が整っていったのです。特に活発になったのがITのスタートアップ企業で、そうした中、英国政府は迅速に動きました。2010年11月にキャメロン首相は、そのエリアのアントレプレナーシップをさらに加速させて英国版シリコンバレーに成長させるべく、"East London Tech City"構想を発表し、積極的なサポートを始めるようになったのです。それがテックシティです。

 

政府の支援は、起業に対して税制面で優遇し、投資家に対しても減税措置を取っただけではありません。"Tech City UK"という非営利の組織を立ち上げて、起業しようとする人たちを技術的にサポートしたり、行政、教育関係者、投資家など、関連する人たちをつないで、一気にこの動きを盛り上げていく環境を整えました。その動きは確実に実り、その後、Google、Facebook、Ciscoといった世界的なIT企業もテックシティに拠点を持つようになりました。そしてこのエリアにおける会社の数は、2008年には十数社だったのが、テックシティ構想発表の2年後には200社にまで増え、さらに現在では1300社を超えるまでに急増したのです。GoogleのCampusビルは、まさにその象徴で、このビルの地下のカフェでは、多くの若者たちが、世界を変える新たなビジネスを生み出すべく、毎日議論を重ねるようになりました。

 

テックシティのスタートアップ企業の特徴の一つとして、既存の大企業との結び付きが強いことが挙げられます。この点はシリコンバレーとの大きな違いと言われますが、シリコンバレーが近郊のサンフランシスコから車で1時間程度かかるのに対して、テックシティはロンドン中心部のすぐ隣にあるという土地柄の違いが大きく関係していると言えます。とりわけ金融街が近いため、テックシティには金融とIT技術を融合したスタートアップが数多く、”FinTech”(FinanceとTechnologyを組み合わせた造語)と呼ばれる分野では、ロンドンはすでに世界最大の中心になっています。

 

一方、華々しい発展を遂げているものの、テックシティはまだ初期段階です。本当にアメリカのシリコンバレーのようになっていくのかという点については、もう少し様子を見なければわからないという声も多くあります。テックシティ内で生まれた企業が、買収や新規株式公開によって大きな資金を手に入れて、それを元手に新たなビジネスを立ち上げる、というサイクルが繰り返されるようになってようやく、そのエコシステムが確固たるものになっていくと言えるからです。そうなるまでにはまだしばらく時間は必要そうですが、いずれにしても、その存在感がこれからますます大きくなることは間違いありません。

 

大学と産業界をつないで、アイディアを製品に結実させる「カタパルト」

テックシティとともに、英国のアントレプレナーシップの活況ぶりを支えている取り組みをもう一つ紹介します。それが「カタパルト(Catapult)」です。「カタパルト」という言葉は、航空母艦などの狭い場所から航空機を飛び立たせるための装置や、石・矢などを放つ古代の兵器を意味しますが、英国にできたこの新しいカタパルトは、先端技術や科学における優れたアイディアを、製品やサービスとして世に送り出すための新しい公的な拠点です。ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)傘下の「Innovate UK」によって2011年に発足しました。

 

具体的には、英国が今後世界をリードしていける可能性が高い重点分野について、それぞれ「カタパルトセンター」という拠点を英国各地に作っていくというものです。7つの分野から始まり、現在は以下の9つの分野においてカタパルトセンターが立ち上がっています。

  • 細胞治療
  • デジタル
  • エネルギーシステム
  • 未来都市
  • 高付加価値製造
  • オフショア再生エネルギー
  • 精密医療
  • 人工衛星利用
  • 輸送システム

 

それぞれのカタパルトセンターは、例えば「細胞治療カタパルト」といった一つの組織として、専門のスタッフを抱えています。その主な仕事は、「デジタルカタパルト」のイノベーションディレクターであるマルコ・バラバノヴィッチ氏の言葉を借りると「大学と産業界のギャップを埋める、ブローカーのような存在」*として動くことです。つまり、産学連携を促進し、製品やサービスを世に生み出すための「発射装置」ということになります。

 

例を一つ挙げると、「輸送システムカタパルト」は、オックスフォード大学の移動ロボティクスグループ(Mobile Robotics Group)とエンジニアリング会社RDMグループの技術を統合し、自動運転車「LUTZ Pathfinder」の製作を主導しました。「LUTZ Pathfinder」は高い評価を受け、現在、英自動車製造販売協会(SMMT)の2015 Automotive Award for Innovationの最終候補に残っています(2015年11月24日に受賞企業発表予定)。輸送システムカタパルトのオンライン記事(英語)によれば、毎年120万人が交通事故で亡くなりますが、その9割は人為的なミスによるとのこと。そうした中、これから拡大するだろう自動運転車の開発競争で英国がリードすることを目指しています。

 

Innovate UKは、毎年1、2つずつ新たな分野のカタパルトを増やし、2030年までには30種にまで増やそうと計画しているとのことです。今後の英国のイノベーションを大きく後押しすることが期待されています。

 

英国と日本にある数々の共通性

以上の二つの例から、英国政府がアントレプレナーシップのサポートにかなり力を入れていることがお分かりいただけたかと思います。そして実際に英国の起業家を取り巻く状況は大きく変化しています。

 

日本にとって、これは大きな参考になるはずです。というのも、日本が今後IT技術の分野で世界に存在感を示すためには、アメリカ以上に英国の動きを参考にすべきだという声が多くあるためです。その主な理由は、テックシティのところでも書いたように、英国のアントレプレナーシップが既存の大企業と融合しているということです。新興企業が歴史ある大企業と対立するのではなく、互いにそれぞれの利点と強みを生かしながら共存、成長していこうという方向性は、伝統的な大企業の存在が現在も揺るぎない日本に合うはずです。また、2020年に東京でオリンピックが開催される点も、ロンドンオリンピックを終えたばかりの英国の状況と重なります。

 

英国のアントレプレナーシップや新生ビジネスの動向から、ますます目が離せません。

 

ライター 近藤 雄生

http://www.yukikondo.jp/

 

*参照元:Hagiwara, Shogo. "How to Innovate Like the UK" WIRED Vol.16 11 May 2015: 118-131. Print.
 


 

駐日英国大使館は、2015年12月2日(水)に「日英イノベーションエコシステム・セミナー」を開催予定です。英国のベンチャー支援、育成システム、イノベーションを生み出すエコシステムについて、日英両国の政府、大学、企業からの講演者9名が日本との連携について議論します。詳細はイベントページをご覧ください。

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