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10万ゲノム解析プロジェクトが切り開く、希少疾患の創薬 1/2

  • 12 April 2016
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ヒトゲノムが詳しく解読されてから13年が過ぎ、医療の現場では、遺伝子の変異やタイプが調べられるようになっています。ゲノムと遺伝子についての研究、ゲノミクスは、1953年のジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによるDNAの二重らせん構造発見に端を発します。2人がケンブリッジ大学 キャベンディッシュ研究所在籍中に、同僚だったロザリンド・フランクリンによるDNAのX線回折写真を見て二重らせん構造を思いついたことは、周知のとおりです。

 

英国ゲノミクス・プレシジョンメディシンセミナーで挨拶をするティム・ヒッチンズ駐日英国大使

2016年3月17日(木)、「Innovation is GREAT~英国と創る未来~」キャンペーンの一貫として、英国におけるゲノミクスの現状を紹介するセミナー「英国ゲノミクス・プレシジョンメディシンセミナー」が開催されました。講演と共に、登壇者と参加者によるパネルディスカッションも催されました。

 

 

 

 

開会にあたり、司会役を務めた東京医科歯科大学大学院 保健衛生研究科教授の赤澤智宏氏が、「インタラクティブなセミナーにしたいので、ご質問やご意見をどしどしお願いします」と話し、参加者に配られたデバイスを使って会場内の意見や状況をリアルタイムで集計できることを紹介。「試しにデバイスを使ってみましょう。これまでに英国大使館に来たことがありますか? YesかNoのボタンを押してください」と場を盛り上げました。結果はYesが47%となり、半数弱の参加者の方々が、初めて大使館に足を運んだことになりました。

 

英国挙げての「10万ゲノム解析プロジェクト」

Prof Tim Hubbard, Head of Bioinformatics, Genomics England

はじめに、ロンドン大学キングスカレッジの教授で、医学・分子遺伝学部長およびキングス・ヘルスパートナーズのバイオインフォマティクス部長を兼任するTim Hubbard氏が登壇。英国保健省が設立したGenomics Englandによる「10万ゲノム解析プロジェクト」について紹介しました。まずGenomics Englandについて「がんおよび患者さんの数が少ない希少疾患を対象に、患者さんのゲノムの塩基配列を高速で解読し、臨床と研究を橋渡しすることを目指しています」と話しました。

 

 

ここで、もう少し詳しく10万ゲノム解析プロジェクトについて説明しましょう。最大のミッションは、乳がん、大腸がん、卵巣がん、肺がん、B細胞性慢性リンパ性白血病などの患者さんとその家族、100種類の希少な遺伝性疾患の患者さんとその家族を対象に、合計10万人分のゲノム解析を行い、新たな治療法や薬の開発に結びつけることにあります。英国内に11箇所のゲノムセンターが設けられ、常時、プロジェクトへの参加者を募集中とのことです。「すでに、これまで診断すらつかなかった稀な病気を特定し、集めたデータを統合してアウトソーシングし始めています。医師にとっては足りない臨床データを共有できるメリットがあり、患者さんも病気や新薬の情報を入手できるようになります。一方で、バイオインフォマティクス、創薬、細胞治療といった関連企業の活動を後押しするのも目的の1つになっています」とHubbard氏。

 

Hubbard氏は、プロジェクトを推進するうえで特に重要なのは、患者さんから採取したサンプルの品質管理や規格化、データの一元化だと強調しました。「10万ゲノム解析プロジェクトでは、厳しい基準を設けて集めた臨床データを一括して管理し、標準化したうえでスケーラブルに利用できるようになっています。ゲノムの解読、注釈付け、アウトソーシングを行う企業はコンペによる委託契約となっており、医師は匿名化したデータにアクセスできるようになっています。サンプルを国外に持ち出さない、データ処理はゲノムセンター内でのみ行うといったルールの下で運用していますが、データの質の担保や共有化には課題も残されています」とし、データを扱う側の啓蒙が重要だとまとめました。

 

ゲノミクスを創薬に生かすとは?

Dr John Whittaker, Vice President,  Statistical Technology/Platform, GlaxoSmithKline plc

続いて登壇したのは、英国発の世界的な製薬企業「グラクソ・スミスクライン(以下、GSK社)」で副社長を務めるJohn Whittaker氏。GSK社は英国を代表する製薬企業で、2000年以降は抗生物質、HIVなどの感染症、自己免疫疾患、ワクチン開発などを幅広く行っています。2015年より、10万ゲノム解析プロジェクトの一端を担う官民のコンソーシアム(Genomics Expert Network for Enterprises: GENE)に参画し、がんと希少疾患を対象にした個別化医療の推進、医療へのアクセスの迅速化などを図るための研究開発を進めています。

 

 

そのなかでWhittaker氏は、統計学や情報学などのいわゆるバイオインフォマティクスと、従来の遺伝学や細胞生物学などを結集させることで、「薬を的確に効かせるためには、遺伝子やたんぱく質のどの部位をターゲットにすればよいか」を検討する部門を率いています。

 

講演においてWhittaker氏はまず、会場に向けて「創薬の成功率はどのくらいだと思いますか」と質問。ほぼ全員が「10%以下」を選び、「さすがに、よくご存知ですね。学術界においてこの数値を紹介すると、みなさん驚かれるんですよ」とコメントしました。そのうえで、創薬の失敗が、ヒトでの安全性や有効性を検証するフェーズ2からフェーズ3に特に多いと話し、その理由が治療に望ましい薬剤設計に合うものを作れない点にあり、そこをゲノミクスで改善できると強調しました。

 

「ゲノミクスを利用すれば、ある薬を開発した時に、効果を期待できる患者さんとできない患者さん、重い副作用が予想される患者さんなどをあらかじめ選び出すことができます。例えば、進行乳がんの新薬レパチニブは、白血球の型(HLA)によっては重い肝臓障害が起きますが、治療効果による利益の方が大きい場合が多く、医師は患者のゲノム情報を手掛かりに副作用のモニタリングに使えるようになってきています。一方で、ゲノムタイプによって『明らかに副作用の方が大きい』とわかった場合には、その薬は使わないという選択ができます」とWhittaker氏。

 

GENEコンソーシアムについては、「患者数が少ないためにゲノム情報が集まらなかった希少疾患のデータを集約して解析し、得られたゲノムデータと電子医療データとをつなげて、さらに新しい薬のターゲットを見つけ出したいと考えています」と話し、「薬効のすべてがゲノムで決まるとは考えていませんが、環境に左右されないゲノム情報は測定しやすく、因果関係を示しやすい特長があります。この利点を創薬に最大限活かせるようになるとよいと考えています」とまとめました。

 

すでに希少疾患の新規遺伝子が続々と

Mr Mike Furness, Head of Sales & Marketing, Congenica Ltd.

3番目は、Congenica社で営業とマーケティング統括責任者を務めるMike Furness氏が登壇。Congenica社は、ヒトゲノム計画を牽引してきたサンガーセンター発のスピンアウト企業で、10万ゲノム解析プロジェクトでは、「ゲノムデータ中から希少疾患に関わる領域を抽出し、臨床的な解釈を行うソフトウェア」などを開発しています。Furness氏自身は、長年にわたり、DNAの自動精製やシーケンスシステムの技術開発を行ってきた経歴を持っています。

 

 

「Congenica社にはサンガーセンターや大学から迎えた専門家も多くおり、かなり大胆なビジョンを描いています。希少疾患の患者さんのうち、75%は小児期に発症します。また、患者さんの80%で遺伝子レベルの変異であることが確認されており、有効な治療法がない患者さんが95%に上っています。私たちは、こうした厳しい状況にある希少疾患の患者さんを国際標準で診断できるようにしたいと考えています」とFurness氏。

 

Congenica社には、臨床医から「患者を匿名化したゲノム情報」が送られてくるそうです。Furness氏らは、その配列情報に注釈付けを行い、さらに多型情報や該当疾患についての論文情報などを添付して医師に戻しています。医師は戻された情報をもとにクリニカルレポートを作成することができ、それを患者さんへの説明にも使えるようになります。

 

「目下、診断不能だった疾患の35%に診断が付けられるよう、新たなツールを開発しているところです。網膜症レチノパシーなどの眼科領域や骨硬化症などを対象に、患者さんをグループ化して解析を進め、すでに病気と関連する新たな領域を250、新規遺伝子やマーカー候補を25も特定しています。医師にとっての大きなメリットは、患者数が極端に少なかった希少疾患でも、世界中の患者さんのデータにアクセスできるようになることです」とFurness氏。最後は、「医師や私たち、私たちのパートナーはクラウドでつながることができます」と結びました。

 

セミナーはここで一時中断され、コーヒータイムとなりました。あちらこちらで和やかな会話が進み、パートナー化に向けた商談がなされていたようです。後半の様子は、次回に続きます。

 

サイエンスライター 西村 尚子

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