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英国のNational Phenome Centreが進めるフェノタイプ解析

  • 10 December 2015
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患者さんごとの遺伝的背景、食事や運動などの生活環境を把握することは容易ではありませんが、「病気や体質の状態(フェノタイプ)」は、持って生まれた遺伝子や環境が複雑に作用し合った結果と言えます。現在、遺伝情報(ゲノム)、タンパク質(プロテオーム)、代謝産物(メタボローム)などの情報を用いて、より簡便にフェノタイプを特定する技術開発が欧米を中心に進められています。

 

駐日英国大使館は、「Innovation is GREAT~英国と創る未来~」キャンペーンの一貫として、2015年10月29日(木)に開催された東京大学主催の「クリニカル・トランスレーショナルリサーチシンポジウム ~ 世界の動向:英国に学ぶ Metabolic Phenotyping for Precision Medicine ~」をサポートしました。このシンポジウムでも、英国のNational Phenome Centreによるフェノタイプ解析の一例が説明されましたが、今回は本センターについて詳しくご紹介したいと思います。

 
科学者が実験している様子National Phenome Centreは、2012年のロンドンオリンピックの際に、ドーピング検査ラボとして作られた施設を「オリンピック・レガシー」として利用し、設立されました。サウス・ケンジントンに位置し、体内で代謝される物質を解析するための技術開発、病気の診断や予後を予測するための指標(バイオマーカー)探索などを行うことがミッションで、病院やNMR(核磁気共鳴)施設も併設されています。医学研究会議(Medical Research Council)と国立衛生研究所(National Institute for Health Research)をはじめとする国立機関や、複数の民間企業による資金、技術、スタッフなどの支援を受けています。

 

私たちのゲノムには、約2万個の遺伝子があります。すでにこれらの遺伝子の99%以上が詳しく解読されており、「一つの塩基が他のものに置き換わっている部位(SNPs:一塩基多型)」が全ゲノムに渡って300万か所以上もあることがわかっています。また、病気の原因となる遺伝子(病因遺伝子)を持っていない場合でも、複数のSNPsの組み合わせが血圧、血糖値、体重などの体質として表れ、その結果として糖尿病、心筋梗塞、がんなどの発症に結びつくことも判明してきました。

 

例えば、「ナトリウムやカリウムの代謝」、「血圧を上げる酵素」、「血圧を下げる酵素」、「糖の代謝」、「脂質の代謝」に関わる遺伝子にSNPsがいくつもあると、健康な人よりも高血圧、心筋梗塞、脳梗塞などを発症しやすくなります。「どのくらい発症しやすくなるのか」は、SNPsの種類、数、病気の種類によりますが、多くはリスクが1.2倍に増える程度です。ただし、極端な例もあります。アルコール分解に関わる遺伝子のSNPsの組み合わせによっては、「飲酒も喫煙もした場合、食道がんを発症するリスク」がSNPsを持たない人の190倍に跳ね上がるそうです。

 

すべてのSNPsを個人ごとに調べるのは容易ではありませんが、最近になって、血液、尿、がん組織、薬剤などが代謝される過程で作り出される物質(代謝産物)を調べることでも、病態、治療効果、副作用、予後を予測するための情報を得られることがわかってきました。National Phenome Centreが代謝物解析やマーカー探索を重要視する背景には、このような事情もあります。例えば、同センターが1年間に扱う血液や尿のサンプルは10万件に及び、がんや関節リウマチなどの特定の病気と関連する代謝産物がないか、代謝産物の量や症状、炎症の強弱に関連性がないかについて詳しく調べられています。

 

一方で、National Phenome Centreは、各国に設置されつつあるPhenome Centreとのグローバルなネットワーク作りも進めています。2015年9月には、シンガポールに世界で2番目に大きいPhenome Centreが開設されましたが、同センターもネットワークに加わる予定とのことです。アジアで多く見られる糖尿病や心臓疾患などのフェノタイプ解析の発展が期待されます。

 

EBM(根拠に基づく医療)や個別化医療が重要視される現代において、フェノタイプ解析が果たす役割は非常に大きいと言えます。創薬、診断、治療の向上に資するのはもちろん、患者さんの尿を解析することで、薬をきちんと飲んでいるかを確認しやすくなるといったことも考えられます。加えて、国際的なフェノタイプ解析のネットワークが構築されれば、民族や人種ごとの詳しい情報の蓄積が進み、よりきめ細やかな創薬や医療が実現すると期待できます。

 

サイエンスライター 西村 尚子

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